ジンペイはたいていの状況で余裕がある。どれだけ切羽詰まった場面でも軽口を叩くし、相手のペースに飲まれることがない。それがジンペイというキャラクターの基本的な在り方だ。
ライムに対してだけ、それが崩れる。
初対面からいきなり距離を詰め、正体判明後のドンパチでは殴ってでも止めようとした。他のキャラを救う場面では基本的に見計らってから動くジンペイが、ライムに対してだけは暴走に近い形で介入している。ジンペイが「意図せず」救ったのは作中でほぼここだけだ。
なぜここだけこうなったのか。ジンペイ側の心理描写はほぼ皆無なので確定はできないが、描写から読める範囲で考えてみる。
ライムは古代の最終兵器から生み出された人工生命体で、生まれた直後から面倒を見てくれた仲間がいる。にもかかわらず孤独を感じているキャラクターだ。
ジンペイから見ると、これは「持っているのに気づいていない」状態に映ったのではないか。
ジンペイが欲しくても手に入らなかったもの、コマくんと出会うまでおそらく持てなかったもの、それを最初から与えられていながら孤独だと言っている。その状況を目の前にして、ジンペイが完全に平静でいられたかどうか。「本人が望んで言いなりになっているわけじゃない」ことへの切実な共感と、「てめーは最初から持ってたやろ」という無自覚の感情が、全部混線した可能性がある。
本人はそれを自覚していない。自覚したら自分自身の孤独に向き合わないといけなくなるから、「助けなきゃ」に全振りして暴走する。
殴り合いの後、ジンペイは珍しく自分の身の上を話し始める。母親のこと、父親のこと。普段は絶対に出てこない話だ。殴ったことへの罪悪感から「俺も自分の身を切るね」という感覚で話し始めた可能性がある。
しかしライムの返しは「いいな、君には育ててくれた親がいるんだね」だった。
ジンペイが珍しく無言で止まる。
ジンペイが話したかったのはたぶん「親がいるかどうか」の話ではない。自分の信条の話で、孤独の話で、それでも諦めずに生きてきた話だ。でもライムの返しはそこに届かなかった。「親がいていいね」という言葉は、ジンペイにとっていくつもの意味でズレている。その親はもういない可能性が高い。いたときも気を遣って甘えられなかった。そしてそもそも、ジンペイが言いたかったのはそういう話じゃない。
訂正しようとすれば自分の話をもっとしないといけなくなる。だから無言で止まるしかない。
伝えようとして、伝わらなかった。ジンペイにとってはおそらく慣れた経験のはずなのに、このときだけは珍しく自分から踏み出した分だけ、その着地点のなさがきつかったかもしれない。
結果的にライムは救われて、その後ジンペイにとって大切な存在になっていく。でもあの場面のジンペイは、おそらく自分でも何をやっているかわかっていなかった。ジンペイがジンペイ自身に一番無防備だった瞬間のひとつだと思う。