記事4「誰にも救えない ── ジンペイの孤独と自己開示」

ジンペイは他人の心の傷に気づく。気づいたら放っておけない。実際に救う。これは本編を通じて繰り返されるパターンで、ジンペイという人物の中心にある話だ。

ただし非対称性がある。

ジンペイは他人の精神にダイブして内側から救う能力を持っているが、ジンペイ自身にダイブした描写は本編中に存在しない。他人の心には踏み込めるのに、ジンペイの心には誰も踏み込めない構造になっている。

自己開示もほぼしない。シリアスな話題になりそうな場面では必ず何かで空気を散らす。突拍子もない発言か、話題の転換か、笑いか。本音に近い言葉が出そうになる手前で、いつも別の何かが出てくる。

例外がある。ライムとの殴り合いの後、ジンペイは珍しく自分の身の上を話し始める。母親のこと、父親のこと。普段は絶対に出てこない話が出てきた。これはジンペイにとって異常事態に近い。余裕がなくなって素が漏れた、あるいは相手を救おうとして「共感」にシフトしてしまった結果だと読める。直後にライムの返しがズレていて、ジンペイが珍しく無言で止まる場面がある。伝わらなかった、という経験をそこでしている。

他人からの好意の認識についても、似たような非対称性がある。

ジンペイは他人の感情を読む能力が高い。なのに自分に向けられた好意だけ、なぜか機能しにくくなる。ゲーム版で「そういうのは直接言ってくれないとわからない」という趣旨の発言をしている場面があるが、これは能力の問題ではなく認識の問題に近い。自分が好かれる理由がないと、どこかで思っているから気づけない。

マタロウから「ジンペイ君はヒーローだよ」と言われたとき、素の反応で一瞬止まっている。それだけ意外だったということだ。

救われた側の感情はデカい。でもジンペイ側はそれに見合った実感を持てていない。非対称なまま関係が続いていく。

本編中のジンペイは、誰かの心を開かせることを繰り返しながら、自分の心は一度も開かなかった。それは強さではなく、開き方を知らないまま育ったからかもしれないし、開いたら何かが崩れると無意識で知っているからかもしれない。

どちらにしても、ジンペイだけは誰にも救えない位置にいる。本人がそれを求めていないから、という理由も含めて。